35. クルーズ人口
ホーランド・アメリカ・ラインのクルーズ客船ヴォーレンダム(フォーレンダム)。例によって、ネットでカレントポジションをチェックして浦賀水道入航を待つ。今日は横浜入港予定が16:00なのに、浦賀水道の入航予定は13:45、通常は横浜から1時間程前に浦賀水道入航なので事情がわからない。春霞と陽炎でやや写りが悪い。しかし・・・カレントポジションを憶えたのは良かった。観音崎、当社からだと真東を見て観音崎手前の旗山崎・走水小学校をかわして入ってくる船をひたすら待つのは骨が折れるし時間がかかりすぎる。カレントポジションを見ていれば、今日であれば、まだ伊豆半島の南だとか、大島の北側を通過したとかが10分遅れほどで判るから有難い。シープリンセスが見えなかった時も、カレントポジションで猿島を越えたから「ああ、霧で見えなかったんだな」と判断がつくので延々と待ちぼうけになることもない。
フォーレンダムは横浜初入港、由緒正しき1873年創業のホーランド・アメリカ・ライン(HAL)のクルーズ客船である。HALも今はオランダに会社があるわけではなく、1971年に北大西洋定期航路を閉鎖してクルーズ客船に転業した時、アメリカに会社を移している。1989年には、ミッキー・アリソン率いるカーニバルの傘下に入った。ミッキー・アリソンはカーニバルCEOを父親から引き継ぐと株式を上場して資金を調達、この資金でロイヤルカリビアンクルーズのTOB(敵対的買収)を仕掛けるも失敗、取って返してHALを買収した。これが、後にキュナードやP&Oを買収して世界一のクルーズ船会社に巨大化してゆく第一歩になった。フォーレンダムは新船建造第二シリーズ、ロッテルダム級の二番船である。今回は中国から日本、ベーリング海を経由してバンクーバーまでの北太平洋クルーズ、その前は南太平洋を回っているようだから、全体で右回りの太平洋一周ということになる。
地球規模で見た場合にクルーズ旅行はものすごく需要が伸びている分野で、10万トンを越える客船はすでに30隻以上を数えている。船は殆ど海に出ているわけで、10万トン超客船だけで定員を平均4000名X消席率85%として一隻3400名、30隻ならばこれだけで約10万人! 10万トンに満たないクルーズ客船が一体どれだけあるかわからないが、随分大雑把な計算ながら、ざっと総乗客数をその倍くらいとすれば20万人で〆て30万人! である。 毎日30万人もの人が船に乗ってクルーズを楽しんでいる。30万人を、ざっと一乗船あたり1週間として、船の稼働率95%X52週=49.4週、30万人X49.4週で14,820,000名、年間1500万人の人がクルーズ客船に乗っていることになる。1915年頃に最も乗船客が多かった北大西洋航路の乗客数が100万人ちょっと、交通手段が船だけだった当時でこれだから1500万人というのはとてつもない数である。(注:ここまで書いて、あまりいい加減な数字ではいけないと思って、一応それらしい資料をひもといてみると2007年あたりで、世界クルーズの需要は1550万人くらい・・・当たらずも遠からじである)
日本のGDPは、2010年で全世界GDPの8.68%にのぼる。日本のクルーズ需要は概ね20万人弱だそうだから、世界のクルーズ人口のわずか1.2%ほどしかない。何もかもGDPと比例するわけではなかろうが、相対的に低い。原因のひとつはクイーンエリザベス2にあったらしい。クイーンエリザベス2が日本に来た時に「豪華客船」とやってしまったものだから、日本ではクルーズ客船の旅が「豪華客船の高級レジャー」と認識されてしまったらしい。欧米でクルーズ需要が爆発的に伸びたのは、エコノミーツアー(これをマスマーケットと呼ぶ)が普及したことが要因だ。
GDPが出たついでに、先日、素朴な疑問が解けたので一筆。アメリカは世界一の経済大国だが、人口では世界3位で世界比4.5%、この4.5%の人口で世界GDPの22%以上を稼いでいる。一体何をそんなに作っているんだろう? と思ったことはないだろうか。実は、アメリカという国は消費大国で、アメリカのGDPは生産ではなく消費によって稼ぎ出されているのだそうだ。僕らが受けた教育も今や相当古典的なものになっていて、何と言ってもGDPではなくてGNP(国民総生産)だった。そのころ学校で習ったのは、せっせと電気製品やカメラや自動車や船を作った生産高がそのままGNPのように習った筈で、だから僕は今でも産業の空洞化を真剣に心配するのだけど、それは雇用という側面では大問題ながらGDPには影響が少なくて、むしろ買って食って買って食って・・・こいつを皆で裏付けのないカードで支払って・・・とやればGDPは増えるようなのである。もう、額に汗して作りだした純粋な付加価値なんて考え方は古い。クルーズ人口もGDPのこともわかったけれど、不思議なことが多すぎる、この人類は・・・(2013,4,16初稿、2015年加筆)